主任司祭 西川 哲彌(にしかわ てつや)

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この司祭短信をお読みになってから、「じゃー、ちょっと行ってみようか」と思ってくださる方が、お一人でもおられることを期待しながら書かせていただきます。手元に星さんの個展の案内状があります。

星(ほし)さんの略歴にある、上智大学文学部哲学科卒業という一項が目を引きます。陶芸家という分野は、いろんな経歴を持った方がいらっしゃることは確かです。それこそ、大工さんから会社の社長さんまで、いろんな世界の方々が、一念発起して陶芸の世界に身を置いて、粘土を練ること3年5年。そして、その中のごくわずかの方が陶芸家という名称を名刺に入れることができるのだそうです。つまり、それで食べて行ける人だということです。

星さんは、上智の哲学科を卒業されたのですが、実は、単に哲学科に入ったのではなく、神学生として司祭叙階を目指し、そのためにラテン語を習得し、神学を学ぶ前の土台に当たる哲学を徹底的に勉強されたのです。

私ごときが言えるようなことではありませんが、上智大学の哲学科はかなりのレベルで、プラトン、アリストテレスから始まって西洋哲学の大きな流れを学ばせるように構成されています。どんなことがあっても、まず、客観的に捉え、ことの真理を見極める作業をいたします。その訓練を経てから神学部に入ります。星さんは神学部でなく、別の道、土の世界に歩を進めたのです。

ですから、星さんが経歴に上智大学文学部哲学科を卒業していることを、ほこりを持って書くのだと思います。彼の陶芸家としての生き方にも、少なからず、上智で学んだことがにじみ出ていると言っても決して過言ではないと私は思っています。哲学が作品の隠し味になっているのだと言ったら言い過ぎでしょうか。

学年からすると私とそんなに離れていないと思い、確かめましたら、71歳という答えが返ってきて驚きました。芸術家は歳がわからないと言いますが、まだ60代の前半とばかり思っていました。お会いになったらわかります。若い印象をお受けになるでしょう。

さて、星さんの経歴に戻りましょう。上智を卒業して、前々からなんとなく惹かれていた陶芸の道に進路を定め、試行錯誤を重ねながら1979年、森陶岳氏の「相生大窯」に参加し、陶芸家としての一歩を踏み出しました。1949年生まれですから30歳の頃ですね。それから10年あまりして、備前焼の本場、岡山県備前長船に土地を得て、なんと、自分の手で21メートルの登り窯(土地の傾斜を利用して焼き物を焼く窯)を作ったのです。若さというか、創造する熱意というか、とてつもない大仕事だったでしょう。そして、その窯で一年かけて作った作品を焼いたのです。初窯です。

のちに、少し小さめの窯をプロの手を借りて立ち上げ、本格的な作品作りが始まったのです。私は、同級生である名古屋教区の平田政信神父に誘われて、星さんのところに行ったことがあります。この目で星さんが作った巨大な窯を見ました。まるで天にまで届くような窯でした。

そのうち、星さんの作品展・即売会が行われるようになり、会場も名古屋から東京にまで広がり、年に一回、2年に一回という定期的な個展が開かれるようになりました。私は、東京開催の時にはできるだけ行くようにしています。

備前焼というと、厚くて重い陶器をイメージしてしまいますが、星さんの作品は、分厚いものもあることはありますが、多くは陶器というより磁器に近く、全体が薄くできており、叩くと金属音に近い音がします。備前焼独特の土色で、手触りは少しザラザラしています。しかし、使ってみると手に馴染んで、中に入れたお茶でも酒でも素直に収まっているような感じがします。棚に置いて眺めているというより、どんどん使って手垢のついた生活用具にしていったらいいという感じです。少し贅沢ですけど。

立派な窯を有しているし、星さんも作品作りに励んでいるので、年に何回か窯入れをして焼くのかなと思ったら、そうではなく、一年に一回だけだそうです。薪を投入すること約一週間、すっかり冷えて中身を取り出すまで約三週間はかかります。「全て一回勝負です。いい時もあればそうでない時もあります。できたものを見て、納得するだけです」とつぶやいた顔は全てを天に任せた信仰者の顔でした。

小柄で童顔、まさかこの人がこんな素晴らしい作品を生み出しているなんて。ただ感心するばかりです。と同時に、これからどういう作品が産み出されて行くか、ほおっておけません。勝負はこれからだと言ったら叱られるでしょうか。

この度の東京個展は2年ぶり。1年おきの行事になっています。期間は、今週18日~24日まで、朝10時〜夕方6時。場所は、板橋区板橋2丁目45番地11号、ギャラリー「珠玉」の二階。電話は03−3961−8984、交通機関は、JR埼京線板橋駅西口から徒歩10分、東武東上線下板橋駅から徒歩7分、都営三田線板橋区役所前駅から徒歩8分です。期間中、できるだけ星さんが店内で待っているとのことです。よかったら寄ってみてください。

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